加州猫寺調査隊 その16 2008年9月14日
8月31日に一通のメールが入りました。石川県のMさんという方からでした。Mさんは2年以上前にネットオークションで小型の加州猫(と思われる)を出品された方です。その際には5体いっしょに入手したのですが、その出所などを教えてもらい資料として大変参考になりました。
そのMさんから土人形の加州猫がみつかったと連絡が入ったのです。
2年前の記事へ(加州猫寺調査隊その13)
※この色の部分はMさんからのメール(内容は一部編集して引用してあります) |
※この色の部分は私からのメール |
2年半前の2006年冬のやりとりはこんなところから始まっています。
こんばんは。商品の到着を楽しみにしています。 ところで、わかりましたら教えていただきたいのですが、落札した招き猫は私が調査の対象としている「加州猫寺」の招き猫と関連があるかもしれない土人形です。5体とも別々に入手されたとのことですが、もしわかりましたら、どのようなところから出たものか差し支えのない範囲で教えていただけないでしょうか。一つ一つの出所を特定する必要はありません。どのあたりから出てきたものが多いのか知りたいのです。おそらく金沢周辺が多いのではないかと予想しています。 また貼付した写真の招き猫は見かけたことがないでしょうか。かつて金沢市内にあった通称”猫寺”で大正時代に頒布されたものであろうと調査からわかってきました。絵の具に膠が多く剥離が進んでなかなかよい状態のものが見つかりません。もし状態のよいものがあればせひ資料として入手したいと考えています。 お手数をおかけしますがよろしくお願いいたします。 |
それに対しMさんから次のような内容のメールが届いています。
大変貴重なメール有難うございます。ご質問の内容、拝読させて頂きました。 加州猫寺の招き猫は現在 1 個持ってますが、土人形ではなく、磁器でできており、背に加州猫寺と書かれています。結構、大きいです。私の生まれは金沢の南で正に近くに猫寺がありました。当時は猫の供養にお上げしたとの知識などなく、今はその寺さえありません。 今回落札頂きました5個の土人形の背景は分かりませんが出所は全て金沢です。2個は粟ヶ崎方面、1個は猫寺の近くの野町近辺、後は定かではありません。 ○○様の写真の猫ちゃんは初めて拝見するものです。結構、金沢にいきますのでこれからは気に留めておきます。 |
なお、写真の猫ちゃんとは添付した土人形の加州猫です。この土人形の猫は初めて見たということも最後に書かれています。磁器でできたものはもちろん昭和に入ってから制作されたものを指していると思われます。
貴重な情報をいただきましてありがとうございます。これからの調査の参考にしていきたいと思います。 なお、金沢の猫寺こと龍昌寺は輪島に移転しています。また陶製のものは私も大きさの異なるものを2体持っていますが、こちらは昭和10年頃、寺の本堂を改修したときに寄進者などに配られたものではないかと考えています。 土人形の方も大きい方は背中に加州猫寺の文字が入っています。今回落札したものは文字は入っていませんが、あるコレクターが骨董市で大小同時に入手しているので同じ時代の可能性もあると考えています。 現地調査をしたとき、寺は移転してなくなっても、まだ地元では猫寺で通じました。 |
2年半前はここで終わっているのですが、今回届いたメールの内容は編集掲載するとだいたい次のようになります。
大変ご無沙汰致しております。いかが過ごしでしょうか。前回といっても2年半ほど前のことで大変な年月が経過いたしました。いまでも「猫寺」の招き猫、ご研究されておいででしょうか? 先般、骨董道具市で土で出来た○金の猫寺の猫が出ていました。所有者は元々は骨董店主のかたでしたが高齢のため在庫処分として市に出したものでした。当事者は猫寺の猫には興味が無い模様でしたので長期固定保管のため結構絵の具も剥離していました。鈴がわりの○金ははっきり見え、金沢(今は輪島市)の猫寺の猫に相違ありません。 ご依頼された猫を気にはしていましたがこんなところでとの感でした。落札は知人の道具屋さんでした。問題は○○様が望んでいる資料として残したい綺麗な猫には少し無理があるようです。 中々現存は少ないと思います。又、綺麗な猫がでるのか定かではありません。土ものですので年月(大正期でしょうか)が経っていますので、次回の遭遇は かなり困難かと思われます。遭遇した時はびっくりしたのが現実でした。 |
たぶん業者のセリなのでしょう。Mさんの知人の道具屋さんが落札したのでもしよければどうかというものでした。
もちろん二つ返事でお願いしました。
そして待っていた加州猫が到着しました。やはり富山土人形の膠の強さで剥離がかなり進んでいます。目の部分は完全に剥離してしまっています。それでも首玉の前の赤は所有する3体の中ではいちばんよく残っています。何よりありがたいのは補修がまったくないことです。以前から所有する2体は剥離部分に目立たないように墨でわずかの補修があります。その点この猫はそれがまったくありません。耳や口、爪のピンクの部分は剥離ではなく退色していますが絵の具はしっかり残っています。背中の「加州猫寺」の押し文字は生地が薄くなるので穴が開きやすいところですが、これもヒビが少しは入っています。
しかし不完全な状態であっても数があれば、それぞれの不十分な点を補完し合って情報を得ることができます。今後も完全な状態のものはおそらく出てこないでしょうから、数で補うしかありません。今後も可能な限り現物の入手に努めていきたいと思っています。
丸金の文字はよく残っている | 首玉の後ろは剥離が進んでいる | ||
この部分は薄いので ヒビが入りやすい |
(参考)これまでの所有品 |
比較参考資料として静岡県の植山利彦氏所有のほぼ完全な状態の加州猫を再度掲載しておきます。
(参考)植山利彦氏所有のほぼ完全な状態の加州猫寺の招き猫 |
とにかく猫のご縁で今回は大正時代の加州猫を入手することができました。まったく利益抜きで手間をさいていただいた石川県在住のMさんには感謝です。これからもこれまでいろいろとご協力いただいた方のためにも、一歩でも調査を進めていかなければならないことを感じた次第です。