芸者招きの謎
 河村目呂二の芸者招きはあまりにも有名ですが、実際に現物を見た人は案外少ないのではないでしょうか。私も痴娯の家所蔵のものを1回見たきりです。はたして何体くらい現存するのか、またいったい何体くらい製作されたのか、はたまたどのようないきさつでどのように作られたのか、これまでに一切見聞きしたことはありません。
 また芸者招きと言われている招き猫には2種類あります。1つは自性院に伝わる河村目呂二作と伝えられる芸者招きで、これは『招き猫の文化誌』(宮崎良子 1988 青弓社)に写真があるのみで他では見かけたことがありません。同じ「招き猫の文化誌」に掲載されている某彫刻家によって再現された芸者招きも1980年代後半にレプリカで販売されていたものも現在販売されているものも、すべてこのタイプでぽっちゃりの丸顔をして手の位置が耳より低くなっています。
 もう一つは先の痴娯の家所蔵の芸者招きでこれは型が違います。これまでに2回骨董市で見かけたことがある芸者招きは2体ともこのタイプだったはずです。
 はたして目呂二の芸者招きは2種類あったのでしょうか。
 骨董市に出ていたものの内、最初に見たものは彩色がちょっと雑で誰かが後に作ってみたといった感じでした。2回目に見たのは2001年の5月でこれははたして本物かどうか何とも判断はできません。私が「ちょっと肌襦袢などの彩色が簡略化されており、後から作られた作品かな」と言うと、骨董屋のご主人も「私も本物ではないように思います」とのこと。ただ真贋については資料があまりにも少ないので何ともいえません。この骨董屋のご主人の話では以前にもう1体出たものは状態はひじょうに悪いが「河村目呂二」の銘が入っていたそうです。
 骨董市版もよく見ると着物の襟元の彩色や帯留めの鈴のつくりなどはなかなか良くできています。あらためて「痴娯の家」と「骨董市2001年版」の写真を見比べるとよく似ているような気もしてきました。
芸者招きの疑問
  ・いったい何のために作られたのか
  ・いつごろ製作されたのか
  ・型は2種類あるのか(現実に2種類あるが両方とも目呂二の作なのか)
  ・どの程度の数が製作されたのか
  ・誰が作ったのか(すべて目呂二の作なのか。それともプロトタイプを何体か目呂二がつくり、その他にある程度の数、量産したのか。

 その他にもわからないことだらけです。何分現物を持っていないどころか見るチャンスも少ないだけに調査の手がかりはなかなかつかめそうもありません。

自性院タイプの芸者招き 『招き猫の文化誌』(宮崎良子 1988 青弓社)より許可を得て掲載

 
「目呂二の芸者招き」
  
某彫刻家によって復元された芸者招き   80年代市販の芸者招き

 上の3体の芸者招きはすべて『招き猫の文化誌』(宮崎良子 1988 青弓社)に掲載されている芸者招きです。すべて福々しい顔をしています。着物や襦袢の柄はすべて異なります。80年代の量産品をのぞけば、この柄の書き込みに作者のセンスが現れるわけで、おそらくレプリカも含め古い作品は一体一体着物等の柄が異なることが予想されます。それだけに真贋を見極めるのもひじょうに難しいものと思われます。
 なお、白金台”まねきねこ”とは白金台の明治学院前にあった、招き猫をはじめとするネコ関係の商品を売っていた店で今はありません。

「痴娯の家」タイプの芸者招き

   
「痴娯の家」所蔵の芸者招き   新たに追加しました   2001年5月の骨董市に出ていた芸者招き

 上の写真の左は「痴娯の家」所蔵の芸者招きです。現在見られる芸者招きに比べ、先に書いたように少し細身の顔をしています。それに手が耳の上まで上がっていることと口が半開き状態になっていることなど明らかに異なる型から作られたものです。右の骨董市に出ていた芸者招きは袖口から出ている襦袢に模様の書き込みがないことを除けばひじょうに似ています。着物の裾部分の彩色は剥離が激しいのですが、模様は似ているようです。帯の部分などはむしろこちらの方が細かく書き込まれているようです。
 どうでしょうか、これを見て本物だと思いますか?

 とにかく糸口になるものがありません。河村目呂二氏のお子さんの清原ソロさんにお話を伺えれば突破口になるかもしれません。この物件の調査は何かとっかかりがつかめたらやってみようかとも思っていますが・・・・・。
 彫刻家をはじめ、多くの人達を魅了した芸者招きは真相を究明してもらいたくて、今も私を遠くから招いているように見えてきました。


追記(2002年7月8日)
 「痴娯の家」の芸者招きの写真がもう1枚出てきました(上中央の写真)。撮影は同じ時ですが、芸者招きの右側が写っているものです。羽織のしわや凹凸の巧みさに感心します。縮小した写真ではわかりづらいのですが、羽織の袂から見えている着物などの描写もなかなかのものです。今回この写真を見て初めて気が付いたのですが、右耳の後ろの毛がが茶色なので芸者招きは三毛猫であることがわかります。また耳の付け根の外側にある袋状のしわなど猫好きでなければ気が付かないような細かい描写も見られます。少なくとも今までにこの部分を再現した招き猫は見たことがありません。骨董市の芸者招きは正面からの写真しかありませんので、このような点の比較ができないのが残念です。