最近鎌倉にご無沙汰している。池袋から電車を選べば1本で行けるのだが足が遠くなっている。
今年(2023年)の招き猫まつりで萩工房の名称を引き継いでいる弟子の小山内保夫さんに最近の師匠の様子をうかがったところ2年ほど前の令和3年(2021)7月に亡くなられたということを聞いた。1930年生まれなのですでに90歳を超えていた。制作をお願いしたのも20年ほど前だったのでまだ70歳前後の時だったことになる。
堀井孝雄(1930-2021) 1990年極楽寺に萩工房を開く
土人形や張り子などの招き猫は招き猫界ではよく扱われるがなかなかぬいぐるみタイプの招き猫は取り上げられることが少ない。最近は作家物で多くなってきたがその先駆といってもいいような人形なので少ない資料ではあるがアーカイブスとして記録に残すことにした。
画像数が少ないので以前のレポートの再編集ということになる。画像も当時は小さかったので少し大きくした。
なお画像は2002~2005年に撮影したものである。特注した猫もあえて当時撮影したがぞうをそのまま使っている。
<注>萩工房は「ドールズアンリミテッド」と改名して営業していると堀井さんご本人から連絡がありました。 このレポート中の「萩工房」はすべて『ドールズアンリミテッド』と読み替えて下さい。 場所は以前と同じ〒248-0023 神奈川県鎌倉市極楽寺1-2-9 で江ノ電極楽寺前です。 ホームページも https://doll-unlimited.blogspot.com/ と変更になっています。 2012年2月24日 <追記> 堀井さんは亡くなられましたが、現在もホームページは存在しています。 管理者はどなたかわかりませんが堀井さんのお子さん夫婦も創作活動をおこなっているようなので HPは続いていくものと思われます なお、「ドールズアンリミテッド」で使用されている画像の2枚は 「ねこれくと」のものが使用されている思われます。利用は大いに歓迎です とりあえず念のため 堀井さんの作品は上記のHPで見ることができます 2010年に堀井孝雄さんからの萩工房の暖簾を渡したときのメッセージは次の所に残されています 萩工房(小山内保夫さん)の「先代 堀井孝雄より皆様へ」 2023年9月 |
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もう20年以上前になるが、以前存在した「ねこま倶楽部」の掲示板に江ノ電招き猫について話題があった。時々仕事で鎌倉へはいくのですが江ノ電招きについてはまったく知りませんでした。早速インターネットで検索してみるとありました。みどり色で江ノ電のロゴの入った招き猫が・・・。
その後、仕事で鎌倉にいったときはすっかりそのことは忘れていた。2ヶ月後再び仕事でいったときはちょっと気になったので時間をとって鎌倉駅の構内の江ノ電ショップを見に行った。そして今回もう一度、鎌倉に別の用事があったので極楽寺にある江ノ電招きの萩工房を訪ねてみることにした。2002年のことだった。
梅雨の曇り空でしたがちょうど紫陽花の季節でもあり、土曜の鎌倉は混雑していた。場所はチェックしてあったので江ノ電の極楽寺で下車しすぐ見つけることができた。仕事柄鎌倉方面には時々来ることがあるのだが、極楽寺は初めてだった。
まずはゆっくりと極楽寺の境内を散策し(無料!)、いよいよ工房の見学だ。
もっとも工房といっても自宅の一間を改造し、ちょうど社務所の授与所といった雰囲気で、店内に入るといった造りにはなっていない。今回うかがったときには人形師の堀井孝雄さんが奥様が横で見守る中、招き猫の制作をしていた。
工房には「散歩の達人」のポスターが貼ってある。いろいろお話を伺っていると何となく思い出してきた。確かに「散歩の達人」で紹介されていたのを見た記憶がある。その時は単に招き猫のぬいぐるみ程度にしか思っていなかったが、今回あらためてお話を伺いながら招き猫を見ているとだんだんこの猫に惹かれていってしまった。
まず萩工房の招き猫は「大入り招き」が先にあったということだ。この図柄は元々はもう廃版になってしまった古い手ぬぐいの型でそれを原型に作られているということだ。色合いは「大入り招き」の右のものがオリジナルに近いそうだ。
あの「江ノ電招き」は最近江ノ電の商品開発の中で生まれた作品のようで、江ノ電のロゴも承諾済みということ。「大入り招き」の方は何軒か扱っている店があるようですが、「江ノ電招き」は工房と江ノ電ショップの限定品のようだ。
またそれ以外にも着物や羽織などの時代布使った作品がある。こちらは1つの着物や服からいくつも型がとれないのでまさに限定品とのこと。昔の刺繍の入ったウェディングドレスで制作したものや九谷焼の盛りを参考にしたきらびやかな招き猫も制作したことがあるとのこと。
2002年にうかがったとき、漆で染めた糸を織り込んだ大正時代の羽織の布で制作された、なかなか渋い招き猫があった。まだ制作途中だったが、予約してしまった。
人形師の堀井さんはいろいろな職業を経験されているようだ。これらの招き猫の原点は何と渋谷にあった。当時渋谷でブティックの店長をしていた頃、近くに住む高齢の女性がもう「生きた猫は飼えないので猫をつくってほしい」と頼まれたのが原点のようだ。それを発端に仕事柄生地に関しては専門なので、今も使用している「大入り」の柄の型の使用許可を得たりしながら現在に至っているようだ。
どうしても招き猫ファンとしては招き猫に目がいってしまうが、創作人形師の肩書き通りいろいろな人形の制作に取り組んでます。特に和紙を使った人形はまさに工芸品といった感じだ。
もし鎌倉まで江ノ電招きを買いに行かれる方はぜひ工房を訪問して堀井さんとのお話しを楽しむことをお勧めします。(ご迷惑かもしれませんが・・・)。
いろいろなイベントで実演をやることもあるので、そのようなときはお話しのチャンスかも。
ところで「江ノ電招き」や「大入り招き」はいいとして、時代布などでできた招き猫は何と呼べばよいのだろうか?そう言えば萩工房の布製人形の総称は何というのだろうか?土人形や張り子なら鎌倉土人形とか鎌倉張り子(これは実際にある!)と呼ぶのでしょうが。
※すべて当時訪問した時のことを元に編集しています
2002年当時 | |
鎌倉駅構内の江ノ電ショップ | 客を呼ぶ「江ノ電招き |
ポスターにも登場 | 今となっては貴重な名刺 |
極楽寺駅 | 駅前の極楽寺 |
萩工房は江ノ電の極楽寺駅前にあった 正確には江ノ電を挟んだ極楽寺向かいである |
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極楽寺 |
頂きもの | |
自筆の袋 | いただいた手ぬぐい |
手書きの袋に入れてもらい、猫柄の手ぬぐいをもらいました。手ぬぐい作者の「桃」とは誰でしょう。
あらためて訪問するということで萩工房を後にしました。こんどはぜひ骨董市で気に入った古布を手に入れて、まさに一点ものの招き猫を作ってもらおうと思いながら一路家路へと向かうのであった。
※なお、萩工房の招き猫には「江ノ電招き猫」や「大入り招き猫」といった通称はありますが、これらの古布を使った招き猫達には特に名称がないということです。とりあえずこの欄では「江ノ電招き猫」という名称を便宜上使っています。
2005年 | |
2005年の萩工房店頭 | タペストリーが変わっていた |
少し猫の数が少ないかな? | |
寝ているのは「いねむりねこたん」 大正の古布使用 | 江ノ島とサーフボードをバックにする波乗りうさぎ |
仕事のついでに寄り道して萩工房に寄った あまり時間がないので短時間の滞在であった 大正時代の古布を使用した「いねむりねこたん」が店頭にあった |
2018年当時の萩工房 |
ストリートビューより |
堀井さんは亡くなられる前、施設に入る際に店内の作品や材料はほとんど素材ゴミとして処分されてしまったらしい。一部の人形は小山内さんのもとへ届けられたようだが、どの程度作品が保管されているかは不明である。誠に残念なことである。
初代萩工房の堀井さんが亡くなられたのは残念であるが、萩工房の暖簾は内弟子の小山内さんに引き継がれ「わるねこ」シリーズという師匠とは異なる新たなキャラクターが生まれている。作り手により人形に変化があっても志が引き継がれているのはうれしいことである。古布製の2匹目を堀井さんに制作依頼できなかったので、今度は小山内さんに古布で「わるねこ」を依頼しようかと思っている。
なかなかこのような人形は一代限りで跡継ぎが難しいが、しっかりと次世代に引き継がれているのは頼もしく思われる。
にっぽん招き猫100人展 2019年出品作品 「新年のお伊勢参り」 プロフィールも掲載されています。
堀井孝雄師匠が永眠いたしました 小山内保夫ブログより