多摩張り子 内野家
種類:紙張り子
制作地:東京都西多摩郡瑞穂町石畑
現制作者:
内野兼太 (初代)によって制作が始められた。伊勢屋の二代目荒田乙吉の弟子として制作を学んだ。伊勢屋の初代荒田佐治右衛門は師をもたなかったが、友さんの弟子である岸の小川家や村野家の影響を受けているという。いつごろの創業かは不明である。明治35年(1902)創業ともいわれているがそれでは初代が12歳のころとなり幼すぎる。村上(1963)は調査時、すでに初代が亡くなった後だったので直接の聞き取りはできなかったが、日露戦争(1904(明治37年)−1905)後であろうと推測している。
内野家にはかなりの数の猫の型があるという。現在制作されている猫の中でも基本的な達磨前抱き猫(招きではない)やだるま横抱き猫(招き猫)などは岸の猫の中によく見られる型である。張り子づくりは三代目の内野治が継いでいるが、兄弟家族で内野屋として制作はおこなっている。
初代 | 内野兼太 | 1890−1961 | 明治23年?−昭和36年 |
二代 | 内野雅夫 | 1934?− | |
三代 | 内野治 |
おもちゃ49・50号(全国郷土玩具友の会 1963)を元にして編集 (猫)表示は猫を制作しているあるいはしていた |
|・・・・・比留間豊蔵・・・比留間音吉 (大正末に張り子はほとんど製作しなくなった) | |・・・・・小川治兵衞・・・小川由治郎・・・小川重光 | | (岸) | | |・・・鶴岡鉄五郎 | | | | | 荒田佐治右衛門・・・荒田乙吉・・・荒田徳太郎 (猫?) ※伊勢屋(没後製作中止) 萩原友吉・・ | | (岸) | (勝楽寺) | | |・・・内野兼太郎・・・内野雅夫・・・内野治 (猫) | | | | |・・・・村野徳次郎・・・村野喜一郎・・・村野金吾・・・村野昭次・・・村野昌利 (猫) (岸) |
武井(1930)より 2系列が記されている |
山口村勝楽寺 友さん・・・・・・三ヶ島 比留間他1軒(すでに当時)達磨廃絶 | ・・・・殿ヶ谷・・・・・山崎平五郎(当主) | ・・・・村山・岸 ・・・・・小川由五郎(当主) | ・・・・・ 砂川 村野徳次郎・・・・村野喜市郎(当主) | ・・・・小川 椚三五右衛門(喜市郎の妹の嫁ぎ先) 椚仁三郎 村山・岸・・・・・・・ 伊勢屋荒田・・・・・・荒田徳太郎(当主) | | | ・・・・・・箱根ヶ崎・・・・内野兼太焉i当主) | | | ・・・・・・石畑 ※制作者氏名なし ・・・・・・・・三ツ木 鶴屋鐡五郎(伊勢屋の弟) | |・・・・・四之宮(永島) 鐡五郎の娘の嫁ぎ先 | ・・・・・・厚木(酒井) 八王子・・・・・・・武蔵屋竹次郎(当主) ※武蔵屋は師につかなかった 当主:当時の当主 |
所有している猫を探してみたところ内野家の猫は7体出てきた。ただし1990年代の記録がはっきりしないので他にもあったような気がする。
@(2002)、B(1993)、C1997)の猫の面相は類似している。達磨を抱えている猫は内野家の猫の中では一部だが、その中で@とBの達磨の面相は似ている。いずれも比較的古い購入品である。YouTubeの映像の中で内野雅夫さんが「若い者の筆づかいは力強い」と内野治さんのことをいっているので作者の(年齢)違いによるものなのかもしれない。
内野家の猫は彩色は赤、黒、金(あるいは黄)とぼかしの朱でそれ以外の色が入ることはほとんどない。猫の柄も黒のみで縁取りもない。尻尾と思われる極太の黒い柄が一筆で一気に描かれているのが特徴である。これは岸(制作者は不明)の古い作品にも見られる。からだのラインは朱のエアブラシで描かれている。ただし@のみは手書きである。首玉は細い赤で模様なしか金の小さな模様が入るだけで結び目や前垂れもないシンプルなもので会田家や根岸家のような装飾性はない。目のまわりには朱のぼかしが入る。大きい猫はマズル(鼻口部)が長めでやや犬顔。
@だるま前抱き猫 瞳なし | |
目に瞳は入っていない | 赤い首玉 |
輪郭の朱は手書き | 左側の黒の斑は尻尾か? |
2002年の購入品 目は朱のぼかしの中に金で描かれ黒の縁取り 瞳は入っていない 根岸家の招き猫にも似た瞳があったが これはどうしてなのか? からだの輪郭線も手書きで描かれている 高さ252mm×横165mm×奥行162mm |
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Aだるま前抱き猫 瞳あり | |
目はぱっちり、大きな瞳 | 赤い首玉 |
朱のラインは爪の位置から後ろ足と思われる | この猫を見ると後ろの黒は尻尾であることがわかる |
2013年購入品 上と同じ前にダルマを抱く猫だが、 大きな目が描かれている からだの輪郭の朱もエアーブラシになっている 裏面の黒ははっきり尻尾とわかる 高さ248mm×横155mm×奥行160mm |
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下の図は「多摩張り子総論 ・古作」にも掲載した岸の達磨抱き猫。内野家ではこの猫を継承していることがわかる。
参考資料 | 岸の達磨抱き猫 |
鈴木(1972 1988復刻)より | 武井(1930)より |
内野家の猫にはダルマを脇に抱えた招き猫もある。
Bだるま横抱き 左手挙げ招き猫 | |
左手挙げ招き猫 | 黒い模様は尻尾か? |
右手でダルマを押さえる | 後ろから見ると尻尾が見えない |
1993年に深大寺だるま市で購入 この型も内野家の猫としては定番 爪の数が合わないのはご愛敬 高さ207mm×横195mm×奥行140mm |
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シンプルな招き猫。横座りタイプであるが、最近正面を向いたタイプもよく見かける。
C横座り左手挙げ招き猫 | |
簡素な彩色の招き猫 | 左手挙げ |
尻尾と思われる | 背中はシンプルで模様はない |
1997年深大寺だるま市で購入 ひじょうに彩色もシンプルな左手挙げ招き猫 身体のラインを表すエアブラシの朱が入る 他の猫と同様太く力強い尻尾が描かれる 大きな目は金で瞳は黒で描かれ下を向く 赤い首玉は模様や結び目はない 今年(2024)圓福寺で見かけた類似の招き猫は 正面を向いているので型が異なる サイズはほぼ同じ 高さ247mm×横162mm×奥行150mm |
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内野家の猫の中では小型の作品。新しい作品は目が大きくなっている。
D座り猫 | |
左 2012年購入 右 購入年不明 1990年代か? |
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左の方がやや顔が扁平 黒い斑の位置が異なる |
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背面の斑の位置が異なる | |
(左) 高さ182mm×横108mm×奥行102mm (右) 高さ179mm×横105mm×奥行102mm |
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圓福寺のだるま市で内野さんが「途中まで手を挙げている」といっていた招き猫を2024年の深大寺だるま市で入手した。あまり数を作っていなかったようだ。
横座り招き猫 | |
控えめに招く | 立派な尻尾 |
右手挙げで近くの福を招くのか? | 首玉も他の猫同様にシンプル |
話をするとかごから出してくれた 確かに低い位置に揚げたては 近くの人や福を招いているように見える あまり見かけない型だ ダルマを抱えていそうなポーズでもある 彩色などは他の招き猫と同じ 高さ168mm×横117mm×奥行92m |
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参考資料 | |
「三つだるま」 以前から気になっていたので今回入手した ダルマは蒐集対象ではないので小型のものを購入した むかしの岸で制作されていたものと同じようで 内野家では猫などと同様に 岸の伊勢屋の作品が受け継がれているようだ 高さ132mm×横96mm×奥行87m |
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「稲荷」 これも伊勢屋の作品を受け継いだものだろうか? 高さ187mm×横93mm×奥行88m |
猫の新聞記事 | |
朝日新聞 2014年4月22日 「ダルマ抱き猫 幸せ抱く」 |
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まだ掲載許可は取っていません |
多摩達磨 内野家 |
瑞穂町郷土資料館所蔵 |
「多摩ダルマ 〜受け継がれる手作りの心〜」 第62回多摩探検隊(2009)
「多摩ダルマ」 東京サイト(2022)
参考文献
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
おもちゃ第49・50号合併号(村上本次郎、1963 全国郷土玩具友の会)
瑞穂町史(瑞穂町史編纂委員会、1974 瑞穂町役場) pp.887−892
多摩の伝統技芸1(下島彬、1990 中央大学出版部)
ねこ(木村喜久夫、1958 法政大学出版局)
縁起だるま 高崎だるまとその商圏(峯岸勘次、2001 上毛新聞社)
越谷の張り子玩具(平成12年度越谷市文化財講習会資料) 越谷の張り子玩具(PDF)
郷土玩具1 紙(牧野玩太郎・福田年行編著、1971 読売新聞社)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
全国郷土玩具ガイド2(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
招き猫博覧会(荒川千尋・板東寛二、2001 白石書店)