多摩張り子総論 および古作 暫定版   
                      

多摩張り子(東京だるま)
 種類:紙張り子
 制作地:東京都瑞穂町・他
 現制作者:
 
 多摩張り子は東京の多摩地方で制作されている張り子であるが、現制作者の名刺や暖簾を見ると『東京だるま』の呼称が使われている。「ねこれくと」では猫の張り子を中心に扱うので『多摩張り子』の呼称を使用する。

 多摩張り子の制作者には瑞穂町箱根ヶ崎の会田雅志、根岸利夫、同町石畑の内野雅志、同町殿ヶ谷の山崎武一、山崎平八、立川市西砂町の村野昭次、秋川市二宮の椚雄仁、青梅市梅郷の藤野和治の氏名が見られる。
 瑞穂町史(1974)には秋川市小川(椚家)、八王子高月(沢井家)、青梅市(藤野家)、立川市砂川(村野家)、瑞穂町箱根ヶ崎(根岸家、会田家)、瑞穂町石畑(内野家)、瑞穂町殿ヶ谷(山崎家二軒)の計9軒の制作者が記されている。
 多摩の伝統技芸1(1990)によれば八王子では10年ほど前(1980年ころ?)までは北野町(羽川富太郎)、追分(武蔵屋竹次郎)も制作していたとのこと。

 過去に多摩張り子の招き猫あるいは猫を制作していた工房は不明な点が多い。この中で現在(2023)古い型で招き猫の張り子を製作しているのは根岸家、内野家、会田家の3軒で、ダルマの制作が長い山崎家(山平)でも招き猫は制作されているが比較的新しい型のように見受けられる。また同じ山崎家(山武)でも招き猫が制作されているがこれも新しい型のようである。(未確認)。
 八王子高月の沢井家でも招き猫を製作していたが沢井安雄が平成4年(1992)に死去し廃絶した。立川の村野家は砂川張り子としてかつては招き猫を制作していたが、現在は制作していないようである。

 あまり新しいデータがないので、手元にある資料から抜粋して列記するにとどめ、今回は読む方に任せてまとめることは避けた。


 60年前のデータなので新しいとはいえないが、調査をおこない聞き取りをしているのでかなり信頼のおける情報ではないかというのが、全国郷土玩具友の会の会報「おもちゃ49・50号合併号」(1963)の村上本二郎による記事である。村上本二郎は東京教育大学(現筑波大学)附属高校の国文学の教師であり受験参考書なども書いていたが、だるま研究でも有名であったようだ。明治初期生まれの制作者が存命であったころに聞き取りをしている。
 下の系統はそれを元に編集加筆した。

おもちゃ49・50号(全国郷土玩具友の会 1963)を元にして加筆・編集   (猫)表示は猫を制作しているあるいはしていた

    八王子
      井上竹次郎・・・井上芳枝         ※井上竹次郎=武蔵屋竹次郎
                  ↓(嫁ぎ先)
                羽川富太郎
    高月
      沢井今太郎・・・沢井寛一・・・沢井安雄 (没後製作中止) (猫)
                           セツ
    青梅     
      藤野福太郎・・・藤野長治


          |・・・・・比留間豊蔵・・・比留間音吉 (大正末に張り子はほとんど製作しなくなった)
          |
          |・・・・・小川治兵衞・・・小川由治郎・・・小川重光
          |     |(岸)
          |     |              |・・・鶴岡鉄五郎 子はいない 養子は制作せず
          |     |              |
          |     |  ・荒田佐治右衛門・・・荒田乙吉・・・荒田徳太郎 (猫?)   ※伊勢屋(徳太郎没後製作中止)
          |     |    (岸)          |
          |     |                 |・・・内野兼太郎・・・内野雅夫・・・内野治 (猫)
          |     |
          |     |
          |・・・・村野徳次郎・・・村野喜一郎・・・村野金吾・・・村野昭次・・・村野昌利(当代) (猫)
          |      ↓(岸)     (砂川)
          |      椚島島次郎・・・椚仁三郎・・・椚八郎
          |      (小川) |
          |           |・・・三五衛門
          |
          |                  |・・・・・会田亀次郎(初代)・・・会田光雄(二代)・・・会田雅志(三代) (猫)
          |                 |     (箱根ヶ崎)
  萩原友吉・・ |・・・・山ア平五郎・・・・山ア定右衛門(二代)・・・山ア貞三(三代)・・・山ア平八(四代) (猫)
  (勝楽寺)       |(殿ヶ谷)
               |
               山ア国五郎・・・・山ア百之助(製作休止)
                (弟)(殿ヶ谷)   |
                           |・・・根岸幸次郎(初代)・・・根岸正吉(二代)・・・根岸利夫(三代)・・・根岸正彦(当代) (猫)
                           |     (殿ヶ谷)
                            山ア鳥之助(初代)・・・山ア武一(二代)・・・山ア美代子(三代) (猫)
                             (弟)(殿ヶ谷)   山アトキ

            ※山ア国五郎:山ア平五郎の弟  山ア鳥之介:山ア国五郎の子で山ア百之助の弟

 ※多摩の張り子をまとめているので神奈川県は系統図に入っていないが、鶴岡鐡五郎には子がおらず養子を迎えたが張り子づくりはおこなわなかったとある。四の宮へ嫁いだのは他の家からか?

 武井(1930)より  2系列が記されている
 
  山口村勝楽寺 友さん・・・・・・三ヶ島   比留間他1軒(すでに当時)達磨廃絶
                   |
                    ・・・・殿ヶ谷・・・・・山崎平五郎(当主)
                   | 
                    ・・・・村山・岸 ・・・・・小川由五郎(当主)
                         |
                          ・・・・・ 砂川 村野徳次郎・・・・村野喜市郎(当主)
                                            |
                                             ・・・・小川 椚三五右衛門(喜市郎の妹の嫁ぎ先)
                                                    椚仁三郎

  村山・岸・・・・・・・ 伊勢屋荒田・・・・・・荒田徳太郎(当主)
                  |    |
                  |     ・・・・・・箱根ヶ崎・・・・内野兼太焉i当主)
                  |    |
                  |     ・・・・・・石畑             ※制作者氏名なし
                   ・・・・・・・・三ツ木 鶴屋鐡五郎(伊勢屋の弟)
                                 |
                                 |・・・・・四之宮(永島) 鐡五郎の娘の嫁ぎ先
                                 |
                                  ・・・・・・厚木(酒井)

  八王子・・・・・・・武蔵屋竹次郎(当主)        ※武蔵屋は師につかなかった
                                                   当主:当時の当主

 ※平塚にはかつてダルマ制作者が10軒ほどあったそうだが、現在も相州(そうしゅう)だるまとして制作しているのは「本家長嶋達磨店」、「長嶋福ダルマ物産」、「荒井だるま屋」の3軒でけである。その本家長嶋達磨店は現在も平塚市四之宮で制作している。本家長嶋達磨店は『初代は長嶋幸太郎で、当初は妻のクニさんの故郷、東京都の多摩よりだるまを仕入れて販売をおこなっていたが、明治32年頃より多摩地方の達磨製法を教わり、独自に作り始めた』とある。おそらく鶴屋鐡五郎の娘がクニさんなのであろう。ちなみに「長嶋福ダルマ物産」は長嶋家の分家で幸太郎の弟の長嶋守光が初代になる。

多摩のあゆみ8号(1977) 多摩張り子の系統   有川滋
 山口村勝楽寺
       友さん・・・・・・ 三ヶ島(比留間他1軒)
             |
              ・・・・ 殿ヶ谷(山ア) ・・・ 山崎平五郎(当主)
             |
             ・・・・ 村山字岸(小川) ・・・ 小川由五郎(当主)
             |
              ・・・・ 砂川(村野)・・・・・・・ 村野徳治郎(当主)
                           |
                            ・・・ 椚 (妹の嫁入先)

      村山岸・・・・・・ 伊勢屋荒田 ・・・ 荒田徳太郎(当主)
             |
              ・・・・ 三ツ木(鶴岡鉄五郎 伊勢屋の弟)
                 (神奈川)・・・・・・ 四の宮(水島 娘の嫁入先)
                          |
                           ・・・・ 厚木(酒井)
                                                当主:当時の当主
    ※武井(1930)とほとんど同じなので武井本を元にしたのであろう
    ※四の宮(水島)とあるが永島の誤記か?


古いデータではあるが

瑞穂町史(1974)
  秋川市小川(椚家)
  八王子高月(沢井家)
  青梅市(藤野家)
  立川市砂川(村野家)
  瑞穂町箱根ヶ崎(根岸家、会田家)
  瑞穂町石畑(内野家)
  瑞穂町殿ヶ谷(山崎家二軒)
                   以上9軒


これもかなり古いデータになるが、

 多摩のあゆみ第69号(1992)   当時の調査  大嶋一人
   村野家 昭次 江戸末期創業?
  比留間家 廃業 だるまやの屋号は残る
  椚家 雄仁 4代目 幕末から明治初期に村野家から技術伝承
  山崎平八 4代目
  山崎武一 2代目 平八の分家ですでに廃業している家から技術伝承する
  根岸家(利夫) 2代目
  内野家(雅夫) 2代目
  会田家(雅志) 3代目
  藤野家(和治) 2代目
     ※根岸家、会田家は当代に当たる。


本書(下島(1990))は中央評論(中央大学)に掲載されたものをまとめているので情報はそれ以前のものである。

多摩の伝統技芸(1990)   下島彬
 秋川市  椚八郎  
 瑞穂町  内野雅夫
       山ア武一
       山ア平八
       会田光雄
       根岸利夫
 立川市  村野金吾
 青梅市  藤野和治
 八王子  沢井安雄
             以上9軒


次は郷土玩具蒐集家のブログ。村上(1963)を元にしているものと思われる

郷土玩具蒐集家と思われるgannsyuuさんのブログ (2013−2014)
   立川市西砂町の村野家
  青梅市梅郷の藤野家
  あきる野市二宮の椚家
  瑞穂町殿ヶ谷の山崎平八家
  瑞穂町殿ヶ谷の山崎トキ家
  瑞穂町石畑の内野家
  瑞穂町箱根ヶ崎の根岸家
  瑞穂町箱根ヶ崎の会田家
                   の8軒とある。
 ブログにはそれほど大きくはないがそれぞれ8軒のダルマの画像が掲載されている。


 ※山アトキ家は現在高齢のトキの子の美代子が中心になり制作販売がおこなわれている。山アトキ家の初代・山ア鳥之介は山ア百之助の弟で分家して独立している。鳥之助は兄の百之助を見習い張り子制作を始めた。別の資料では山ア平八の分家で平八から技術を学んだすでに制作をやめてしまった方から製作技術を習得したのが山ア武一であるという。山アトキ家は二代目を山ア武一とする資料もあるが、武一が亡くなった後、妻のトキが継いでいる。トキを二代目とするか三代目とするかは判断の仕方によって異なってくると思われる。

 現在だるま市などで入手できる古い型の多摩張り子の猫は会田家、根岸家、内野家の3軒のみとなってしまった。同じ瑞穂町内の山崎家(山崎平八)でも猫を制作しているようであるが古くから制作しているのかは不明である。それぞれの制作者の代表的なタイプを下に画像で示した。いろいろなタイプの5方向からの画像やサイズなどのデータはそれぞれページで扱うものとする。

 現在入手できる下記の招き猫に関してはそれぞれの制作者個別に順次アップする予定でいる。達磨はまだ制作しているところもあるが招き猫に関しては瑞穂町内だけになってしまった。
 また、平塚で制作されている相州達磨は多摩から伝わっているということで岸の系列なのであろう。招き猫もあるようなのでいずれ入手してアップする予定でいる。

現在制作されている多摩張り子の猫  
 会田家の招き猫へ 
(工事中)  
 根岸家の招き猫へ
 
 内野家の招き猫へ 
(工事中) 


山崎家(山平)の招き猫へ 
(工事中)

山崎家(山武)の招き猫へ


 現在制作されている多摩張り子の各制作者の基本的な猫
多摩張り子 会田家
会田家の基本形は前向きと横座り これらにいろいろな縁起物がつく
多摩張り子 根岸家
根岸家の基本形はこのタイプのダルマなし 根岸家の中でも新しい型
多摩張り子 内野家  
横座りでダルマを抱える ダルマを前で抱えるので招いていない
多摩張り子 山崎平八家  



未収集


 
 
多摩張り子 山アトキ家
 
  
現代的なデザイン  

 


文献等に見られる多摩張り子の招き猫

八王子の招き猫

高月の招き猫か?  
鈴木常雄(988覆刻)より 木村喜久夫(1958)より


岸の招き猫
 岸の達磨抱え猫は代表的な張り子のようで武井(1930)にも画像が掲載されている。
現在も猫の張り子を制作している内野家は岸の流れを汲んだ猫が残されている。

岸の多摩張り子 鈴木常雄(1988覆刻)より
この達磨抱えは内野家にもある 太い尻尾が描かれている
  武井(1930)より


八王子高月の招き猫
  沢井今太郎(初代)・・・・沢井寛一(二代目)・・・・沢井安雄・セツ子(三代目)
 高月町滝  沢井家では沢井今太郎が大正末か昭和の初期にだるまを作り始めた。その後、子供の沢井寛一、さらに沢井安雄と引き継がれて製作された。沢井安雄(1932−1992)は妻のセツ子(1931−  )と共に制作を続けたが、子どもはダルマ作りを継がなかったので安雄の死去と共に高月の多摩張り子は終焉を迎えた。下島(1990)には沢井安雄の制作過程が収められている。 

王子高月の多摩張り子 鈴木常雄(1988覆刻)より
おそらく沢井家の作と思われる  
   

 八王子ではかつて北野町羽川富太郎、追分の武蔵屋竹次郎らも製作していた


立川市砂川町の招き猫
 砂川張り子として知られている張り子。gannsyuuさんによれば、かつては多くの型があったが腐食や虫食いで現在は残されていないとのことである。

砂川張り子 鈴木常雄(988覆刻)より
村野家の砂川張り子の招き猫
村野喜市郎作

現在でもダルマを制作しているが、
招き猫は型が損傷したためかなり前から
制作されていないようである
鈴木常雄(988覆刻)より
なお、この猫ともう1点ダルマ抱きは下記の中で見ることができる
調布市郷土博物館に寄贈された郷土玩具の企画展より
調布FM たまにち 街角レポート レポーター:秦野優子 2017.07.09
         企画展「おもちゃを愛でる」の中の下の画像をクリックすると
大きめの画像を見ることができる。博物館に寄贈され収蔵されているが
常時展示はされていないようである
 
なお、偶然ではあるが
このページをアップした翌日に
melodi.libraryに河村目呂二による
砂川張り子スケッチが掲載されていた
ダルマ抱きタイプの方である
調布市郷土博物館の砂川張り子は
首玉が青であるのに対し
目呂二のものは赤である

目呂二の画帳「猫玩具」
「砂川張り子」へ


多摩張り子ではなさそう

多摩張り子?    
高さ約18cm    
かつてネットオークション上で蒐集した画像の中に2点多摩張り子?ではないかという作品があった
出品者も詳細はわからないとのことだった
上の招き猫はその中の1点である
もう一点も出品当時砂川張り子ではないかと指摘を受けたようだが、これは越谷張り子で間違いがないと思われる(「越谷張り子 古作」参照)





    瑞穂図書館/温故知新 瑞穂町を旅する地域資料 「多摩だるま」

    「多摩のあゆみ」 公益財団法人 たましん地域文化財団
               第8号(1977 昭和52) 「多摩のだるま」 pp.59−61 有川滋
               第35号(1984 昭和59)「ダルマづくりとダルマ市」山上茂樹翁ききがきノート 第四十六話
               第69号「多摩だるま」 pp.58−65 大嶋一人

    多摩張子1 縁起の章 (gannsyuuさんのブログ 2013.9−2014.3までの短期間しかブログはアップされていない。
                    私より年齢が上の女性郷土玩具蒐集家の方とと思われる 多摩張り子に関してはその7まであり)


    東京に春を呼ぶ「深大寺だるま市」(2022年4月20日号) 調布市動画ライブラリー YouTube





参考文献
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
おもちゃ第49・50号合併号(村上本次郎、1963 全国郷土玩具友の会)
瑞穂町史(瑞穂町史編纂委員会、1974 瑞穂町役場) pp.887−892
多摩の伝統技芸1(下島彬、1990 中央大学出版部)
ねこ(木村喜久夫、1958 法政大学出版局)
縁起だるま 高崎だるまとその商圏(峯岸勘次、2001 上毛新聞社)
匠の姿 祭vol.5(水谷充・出山健示、1999 二玄社)
越谷の張り子玩具(平成12年度越谷市文化財講習会資料)  越谷の張り子玩具(PDF)
郷土玩具1 紙(牧野玩太郎・福田年行編著、1971 読売新聞社)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
全国郷土玩具ガイド2(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
招き猫博覧会(荒川千尋・板東寛二、2001 白石書店)