三春張り子(三春人形) 

 増補版(2021年8月19日)
 改訂版(2023年11月20日)

三春張り子(三春人形)
 種類:紙張り子
 制作地:福島県郡山市西田町高柴
 現制作者:本家恵比寿屋、恵比寿屋橋本広司民芸店、本家大黒屋、彦治民芸店

郷土玩具展望中巻(有坂與太郎、1941)には橋本廣定譜系と橋本廣儀譜系の2つの譜系が記されている。いずれも江戸末期から先代あるいは先々代までの譜系であろう。以下現在三春人形を制作している4工房の譜系についてまとめてみた。
        ※いろいろな書籍を統合して作成しており、現地取材をしていないので誤りがあるかもしれない。

恵比寿屋        →現「本家恵比寿屋」
                   ・・・橋本恵市(当代)
 
橋本廣定譜系(恵比寿屋) 恵比寿屋の分家      →現「恵比寿屋 橋本広司民芸店」
    平次兵衛・・・三四郎(明治12年没)・・・廣右衛門(初代明治12年没)・・・廣右衛門(二代目明治30年没)・・・定吉(明治37年没)・・・鶴吉(大正6年没)・・・廣定・・・広吉・・・広司(当代)・・・将司
橋本廣儀譜系(大黒屋)      →現「本家大黒屋」
    隆章(明治10年頃没)・・・祐右衛門(大正2年没)・・・玉治(大正末没)・・・廣儀・・・芳信・・・彰一(21代目)
天狗屋  売り子の家系で橋本彦治の父の代から制作に加わる   →現「彦治民芸」
    橋本彦治(9代目)・・・高宣(10代目 当代)・・・大介(11代)


 
 福島県の高柴地区では300年以上前から和紙を使った張り子と木彫りの三春駒が制作されてきた。高柴は戦国時代の三春城主田村氏の重臣であった橋本刑部の一族が住んでいた土地で一族の中で武士を離れた橋本家が土人形づくりを始めたのが始まりとされる。当初は堤人形の影響を受ける土人形づくりであったが、やがて木型に漉き返しという繊維の短い和紙を用い、パーツに分けて後から接着する「とりくみ(取り組み)」という技法と小物を組み合わせる独創的な三春人形が誕生し発展していった。
 最盛期は江戸時代の文化・文政期(1804~1830)で明治以降絵の具の規制や東京方面より入ってきた製品に押され、また手間がかかる割に安価なため衰退していった。戦前までは細々と少数を制作するにとどまったが、戦後民芸復興の元に再び制作が盛んになった。

 この高柴の工人集落は「高柴のデコ屋敷」と呼ばれるようになり現在にいたっている。デコは人形を表す木偶(デグ)がなまったものといわれている。現在集落では「本家恵比寿屋」、「恵比寿屋橋本広司民芸」、「本家大黒屋」、「彦治民芸」の4工房が製作販売をしている。
 江戸時代に三春藩領であったため三春人形や三春駒と呼ばれるようになり、昭和に入り、この地でつくられる張り子が「三春張り子」と呼ばれるようになった。
 型はそれぞれの工房で受け継がれ、歌舞伎、節句物、風俗物、干支、面、信仰・縁起物などが制作されている。
 招き猫は本来なかったようであるが、1990年代に訪問したときには本家恵比寿屋でのみ見つけることができた。現在はもっと種類や製作工房が増えている可能性はある。
 また招き猫ではないが三春特有の切れ長の目をした座り猫を見かけたことがある。これは干支の犬を元にしたものではないかと思われる。橋本広司民芸の画像の中にそれらしい猫が写っている。おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996)にも橋本広吉の作品が掲載されている。
 本家大黒屋(大黒屋物産館)にはネズミにだまされて干支に入れなかった「うっかりネコ」シリーズもある。彦治民芸にも座り猫や達磨風の招き猫がある。
 いずれの作品も手張りであるが、猫の形状がシンプルであるため「とりくみ」ではなく従来からの張り子の手法で制作されている。三春張り子の猫も確実に増えているようだ。
                          FUKUSHIMA TRIP 江戸時代から300年伝わる民芸品作りを受け継ぐ集落「高柴デコ屋敷」

 久しぶりのデコ屋敷を訪問した。しかし仕事帰りで16時を過ぎていたためほとんどの店は閉店していた。目的としていた橋本広司民芸店も閉店時間前だったが灯りは見えるものの不在であった。工房が集まるところで灯りがついていた彦治民芸店民芸店をのぞいてみた。
 以前にはなかったと思われる常滑型の招き猫があった。さらに寝っ転がったような猫がいた。小さいサイズもあるようだが今は干支に専念しているということで品切れだった。可愛すぎるきらいはあるが購入した。三春の猫は確実に増えているようだ。(2023年11月17日)


 この本家恵比寿屋の招き猫はおそらく常滑型の招き猫を元にしたと思われ現代的な形状である。時代的に橋本サタ(定?)さんの作品の可能性がある。
猫は後発の作品であるため、江戸末期の最盛期の三春人形とはまったく異なるものである。しかし型自体は現代的なものであるが、手張りでしっかりと三春の製法は引き継いでいる。

本家恵比寿屋の招き猫  
白猫で大きな目 赤い首玉
右手挙げ 尻尾はあるが彩色なし
高さ205mm×横120mm×奥行105mm

模様なしの白猫
右手上げの常滑タイプの形状
大きな目にサーモンピンクの鼻
ひげは立派だが眉毛はない
千萬両の小判抱き
赤の首玉に金の鈴、青緑系の前垂れで松竹梅の柄が入る
手足の先には金と赤の彩色がある
金の部分は肉球か?
眉毛がないので猫の額が広い

その後、猫の色のバリエーションも増えている
 
彩色の際に棒を挿した穴  


彦治民芸の猫  
足の裏はピンク 黒い尻尾
招いているようにも見える 裏にも黄色系の斑
高さ115mm×横131mm×奥行93mm

茶色や黄色の斑の入った三毛猫
黒い尻尾
赤い首玉に金の鈴
あごの下の足は後足か?招いているようにも見える
中に豆が入っているのか、振るとカラカラと音がする
底に「デコ屋敷 彦治民芸」のシール


参考 三春張り子の猫  
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996)より
恵比寿屋橋本広司民芸店制作「座り猫」
本家大黒屋HPより
「うっかりネコ」
  左と下
橋本広司民芸店の座り猫
おそらく三春張り子の歴史のある猫は
これ1匹ではないかと思われる
すでに先代の時には製作されていた
目も三春張り子独特の三日月目(言い方がわからない)で
三春張り子の伝統を引き継いでいる
先日購入しに行ったが閉店時間前だったが
すでに店は閉まり購入できなかった
入手後に再びアップする

画像はインスタグラム
「kaikosuzua」より
  
   
以前不明猫1で紹介していたが
鴨方土人形の橋本さんのインスタグラム
三春張り子とあった




三春駒および三春張り子の年賀切手
昭和29年(1954)の三春駒 平成10年(1998)の寅張り子(左)



  高柴デコ屋敷
  高柴デコ屋敷観光協会 (パンフレットなどはこちら) 

  デコ屋敷大黒屋  (本家大黒屋)
  本家恵比寿屋 (店独自のHPはみつかりませんでした)
  橋本広司民芸 (恵比寿屋 橋本広司民芸店)
  高柴デコ屋敷 彦治民芸

 縮小してあるので元画像は観光協会から見て下さい









参考文献
全国郷土玩具ガイド1(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
招き猫博覧会(荒川千尋・板東寛二、2001 白石書店)
東北の古人形(芹沢長介、1991 東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館)
第27回特別展図録 東北の郷土人形(遠野市立博物館、1993 遠野市立博物館)
仙台市立博物館特別展図録 みちのくの人形たち(仙台市博物館、1996 仙台市博物館)
郷土玩具展望中巻(有坂與太郎、1941 山雅房)
日本発見第二十九号郷土玩具(暁教育図書、1981 暁教育図書)