鴻巣練り物 太刀屋(新)   


                                                    太刀屋(旧)はこちらから
編集途中ですがほぼ完成版です

鴻巣練り物
 種類:練り物
 制作地:埼玉県鴻巣市人形
 現制作者:大塚文武・雅道

  大塚七五郎(初代 安永・天明)・・・・大塚安八(2代目 寛政・享和)・・・・大塚安兵衛(3代目  ー天保12年)・・・・大塚伊兵衛(安兵衛)(4代目 ー明治13年)・・・・大塚安兵衛(5代目 ー大正2年)・・・・大塚高助(6代目 −大正15年)・・・・大塚國造(7代目 −昭和19年)・・・大塚忠雄(8代目 大正4年−昭和61年)・・・・大塚文武(9代目 昭和18年− )・・・・大塚雅道(10代目 昭和48年− )

大正13年の町内地図


太刀屋の練り物
 鴻巣練り物の招き猫といえば、旧作以外では秋元人形店と臼井常吉商店の猫がよく紹介されていた。
 太刀屋は歴史のある人形制作・販売店であるが、全国郷土玩具ガイド2(畑野栄三、1992)でも菖蒲太刀が紹介されているのみで、招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999)にも掲載されていない。したがって当時招き猫としてはまったく埋もれた存在になっていた。1998年に偶然見かけ、1999年に日本招き猫倶楽部の会報「福の素」(福の素No.25)で紹介した。
 現在「たちや」では大塚文武氏により招き猫が制作されている。「たちや(太刀屋)」は安永年間の大塚七五郎から、安八→安兵衛→伊兵衛(安兵衛)→安兵衛→高助→國造→忠雄→文武(当代)→雅道と受け継がれてきた。

太刀屋の招き猫
 たちやの招き猫の種類は小々(65mm)・小(95mm)・中(132mm)・大(170mm)・大々(230mm)の5種類のサイズがある。また白猫(三毛)以外に黒猫がある。ただし大々のみ黒猫はない。いずれの型も先代が制作したものである。
 大々は現在全国で制作されている練り物の招き猫としては最大級のものと思われる。
 また、赤物の招き猫も制作されているがこれは中のサイズのみである。金色の招き猫を見かけたこともある。
 大々のみ挙げている手が身体から離れているため、手は別づくりとなっている。大々以外は手と頭の間に穴を開けて紐やリボンを通して首玉とし、金属製の鈴が付けられている。
 すべて左手挙げで丸目になっている。白猫は少々のみ三毛ではなく黒の斑になっている。

         
            太刀屋


太刀屋の白猫  後列左から大々、大、中、前列左から小、小々
太刀屋の黒猫  後列左から大、中、前列左から小、小々


 

大塚家「太刀屋」の招き猫とタネ
      型は左から中、小、大、大々


大々 白
白猫に黒(灰色)と茶(オレンジ)の斑 左手は別づくり
赤のリボンと鈴 背面に斑なし
高さ230mm×横120mm×奥行125mm

基本的なつくりはサイズにかかわらずほぼ共通

左手挙げ
白猫に黒(灰色)と茶(オレンジ)の斑
背面の彩色はなし
丸目で黄色の目に黒の瞳
ツメと口は赤で描かれている
赤いリボンの首玉に鈴
大々のみ手が別づくりになっている
ツメと口は赤で描かれる  


 
高さ170mm×横90mm×奥行100mm
左手挙げ
白猫は黒(灰色)と茶(オレンジ)の斑
背面の彩色はなし
丸目で黄色の目に黒の瞳
白猫のツメと口は赤、ひげは灰色で描かれている
黒猫のツメと口は白、ひげは黄色で描かれている
赤いリボンの首玉に鈴


 
高さ132mm×横72mm×奥行86mm

左手挙げ
白猫は黒(灰色)と茶(オレンジ)の斑
背面の彩色はなし
丸目で黄色の目に黒の瞳
白猫のツメと口は赤、ひげは灰色で描かれている
黒猫のツメと口は白、ひげは黄色で描かれている
赤いリボンの首玉に鈴


 
高さ95mm×横55mm×奥行65mm

左手挙げ
白猫は黒(灰色)と茶(オレンジ)の斑
背面の彩色はなし
丸目で黄色の目に黒の瞳
白猫のツメと口は赤、ひげは灰色で描かれている
黒猫のツメと口は白、ひげは黄色で描かれている
赤いリボンの首玉に鈴


小々  
高さ65mm×横39mm×奥行38mm


左手挙げ
このサイズのみ白猫の斑は黒で描かれている
背面の彩色はなし
丸目で黄色の目に黒の瞳
白猫の口は赤、ひげは灰色で描かれているがツメは描かれていない
黒猫のツメと口は白、ひげは黄色で描かれている
首玉は細い紐になり鈴がつく


2021年11月6日、12月12日、12月19日
久しぶりに鴻巣を訪問する。太刀屋では赤物を購入すると共に他の制作者を訪ね情報収集、さらに以前はなかった産業観光館「ひなの里」を訪問するという目的も兼ねていた。

久しぶりに訪問した太刀屋   
太刀屋は17年前とほとんど雰囲気が
変わっていなかった。

ところで屋号紋の丸に立はわかるが
のれんにあった「藤堂」とは?
大塚文武さんによれば
江戸時代の鑑札にあった焼き印を
のれんに仕立てたのだそうだ。

調べてみたら人形制作の鑑札を出した
領主の旗本藤堂だった。

以前とまったく変わっていない 「藤堂」とは?
広い店内は
11月からは3月の節句に向けた
展示に代わっていた。
3月の節句人形に展示替えした太刀屋店内
赤物の見本が店内にあった。
袋に入っていないのは見本 後が大々、左が大
鴻巣市観光協会の
鴻巣市産業観光館「ひなの里」でも
展示販売しているが、
在庫があるなら太刀屋の店舗で購入したい。
「ひなの里」 ひなの里の展示販売品  


 カウンター脇の赤物。どれも伝統的な型。

カウンター脇に並べてあった太刀屋の赤物
金太郎が多い
どれもそれほど大きくない。招き猫がいちばん高さがある。


太刀屋の赤物招き猫
前垂れをつけている 黒の斑は金の縁取り
前垂れの彩色のみで首玉は描かれていない 尻尾に彩色あり
高さ133mm×横75mm×奥行78mm

中と同じ猫
太刀屋の赤物招き猫はこのサイズのみ
丸目で白地に黒い瞳
赤物のみ前垂れをつけているが首玉の彩色はなく、
リボンを結んでいる。金の鈴がつく。
黒い斑には金の縁取りがある
尻尾にも斑と同じ彩色が施してある。
爪は白で描かれている


太刀屋の招き猫 大々黒 2021年製
口や爪などは赤で描かれている 左手をしっかり挙げている
赤いリボンに金属製の鈴は他の猫と同じ 尻尾の痕跡はある
ふだんはつくっていないという大々の黒
サイズは白と同じ

爪や口、耳の中は赤で描かれている。
ひげと眉毛は白
20年以上前に入手した黒猫には
赤の絵の具は使われていない。
これはサイズによる違いなのか
時代の違いなのかは不明。
黒はつや消しのような黒


太刀屋の金の招き猫  
小々(左)と小(右) どちらも金の鈴をつけている
爪は赤で描かれている 小々は赤い紐、小は赤いリボンの首玉
小々は一連の風水色ものだが、小はどのような由来かは不明。
小々以外で白猫・黒猫でない招き猫は
この小の金猫しか見かけたことがない。


太刀屋の風水色招き猫
これは12月19日の訪問で神社に依頼されてつくったことが判明。

太刀屋風水色の招き猫  左から金、緑、ピンク、ピンク
爪と耳の中は赤で描かれている。金以外は黒の斑がある。
基本的なつくりは通常の小々と変わらない
小さな尻尾がある
ピンクの2体は色合いがかなり異なる
右から2番目のピンクは杏色に近い
「ひなの里」で
小々の風水招き猫
「ひなの里」で購入した。白や黒もあった。神社からの依頼品だという。
何色あるか、また店舗でも扱っているかは不明。
ちなみに、
金:運気は金運、方向は西・北西、
緑:運気は健康、方向は南・南西、
ピンク:運気は縁結び、方向は東・北とある。
これは神社で入れたものと思われる。


太刀屋の両手招き猫
 これも依頼されて制作したもの。特に販路があるわけではないので表に出ることもなく倉庫に眠っていたようだ。大塚文武さんと話をしていてこんなものがあるといって出てきた猫。

太刀屋の両手招き猫  
三毛で基本的な彩色は通常版と同じ 赤いリボンの首玉に金の鈴
千両箱に足を掛ける 背面に彩色はない
高さ132mm×横84mm×奥行100mm

大塚文武さんと話している中で
存在がわかった招き猫。
両手を挙げて招き、
右足で金色の千両箱を
踏みしめているポーズ。

中と高さは同じだが、
両手を挙げている分だけ幅が大きい。
やや前屈みであるため奥行きもある。
通常版に比べ頭がかなり前に出ている






資料編
 太刀屋の招き猫のタネ(原型)
 桐製で大々のみ手が分離している。表面についている白いものは、かま型を作ったときの雲母(雲母)と思われる。
1998年に聞いた話では職人が木型を作ったということであったが、
 張り子と異なり、かま型以外では使用しないので痛みは少ない。

埼玉県民俗工芸調査報告 第14集 鴻巣の赤物(埼玉県立民俗文化センター、2003)の調査リストによれば、太刀屋では古い招き猫あるいは猫の原型として次のものが確認されている。ただし、他産地のものはタネとして使用されたかは不明。現在制作されているものは含まれていないようである。番号は報告書の番号で実測図が掲載されているのはリスト100の1点のみである。
 残されている型だけでもかなりの種類が制作されていた可能性がある。
 また、鴻巣の練り物(古作)でタイプEとした貯金玉タイプの招き猫は113番の招き猫である可能性がある。

 招き猫尽くし(荒川千尋・板東寛司、1999)に掲載されている赤物2点は横座りタイプで高さが4.5cm、5cmと小型である。おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996)の赤物は前者2点とはタイプが異なり、大きさも7cm×5cmと少し大きくなる。

  番      名称    大きさ        備考        
100  招き猫 高さ120mm×横58mm×奥行80mm     
101 招き猫 高さ105mm×横65mm×奥行70mm  
102 招き猫 高さ142mm×横65mm×奥行65mm  
103 招き猫 高さ90mm×横50mm×奥行52mm 猫赤物の墨書き 
104 招き猫 高さ80mm×横52mm×奥行43mm  
105 招き猫 高さ45mm×横25mm×奥行20mm  
106 招き猫(頭) 高さ90mm×横70mm×奥行78mm  
107 招き猫(手) 高さ120mm×横30mm×奥行35mm  
108 招き猫(手) 高さ70mm×横20mm×奥行25mm  
109 招き猫 高さ70mm×横57mm×奥行40mm 他産地土人形
11 招き猫 高さ90mm×横60mm×奥行45mm 他産地土人形
111 招き猫 高さ25mm×横80mm×奥行50mm 他産地土人形
112 招き猫 高さ110mm×横55mm×奥行55mm 他産地土人形
113 招き猫 高さ135mm×横80mm×奥行70mm 他産地土人形 貯金玉
114 招き猫 高さ155mm×横65mm×奥行65mm 他産地陶人形
115 高さ75mm×横55mm×奥行27mm 馬乗り姿
116 高さ65mm×横105mm×奥行60mm 他産地土人形 寝姿
 ※番号は埼玉県民俗工芸調査報告に準じる    


太刀屋の招き猫 タネ(原型の木型)
左より中、小、大、大々の木型
大々(だいだい)   このサイズのみ左手は別づくりになっている
 
 身体と手は一体化している


大々 木型


大 木型  


中 木型  


小 木型  


 

 制作者不明の古作招き猫  
丸目であるが目の上の縁取りがある 左手挙げ
白猫に淡い黒の斑 尻尾の彩色なし
 高さ129mm×横73mm×奥行80mm

貯金玉などでよく見られるタイプで
現在、鴻巣では見かけない型で、
現代的な形状である。
状態はよくない。
リボンも鈴も当時のものであると思われる。
太刀屋製である可能性もある。
 



 太刀屋の招き猫と出会ったのは偶然からだった。それについては鴻巣の招き猫太刀屋(旧)を参照されたい。ただし当時勘違いしていたところもありますがそのままにしてあります。
        太刀屋(旧)はこちらから
  

1998年当時の太刀屋  
   
『たちや』外観  
   
 獅子頭、赤天神、虎なども見える  『たちや』の招き猫群(右はウサギ)

太刀屋(旧)を見るとわが家には黒猫は一匹もいませんとあるが
勘違いですでに入手済みであった。

1998年11月15日に大々と1999年1月9日に大〜小々の購入記録が残っていた。
1996年から1999年までは丹念に購入記録を付けていたがそれ以外は記録がない。
2004年11月にも購入したようなので黒猫はそのときに購入したものと思われる。


鴻巣市の地域情報サイトで紹介されています
     こうのす広場『鴻巣の赤物』

また、鴻巣市の公式HP観光・イベントの中にも紹介があります。
        『鴻巣の赤物』

参考文献
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
全国郷土玩具ガイド2(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
埼玉県民俗工芸調査報告 第14集 鴻巣の赤物(埼玉県立民俗文化センター、2003)
さいたまの職人 民俗工芸実演公開の記録(埼玉県立民俗文化センター、1991)
福の素25号(日本招猫倶楽部会報、1999)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
大人の地域再発見誌
 こうのす vol.11(情報誌こうのす政策委員会、2019)